<風の谷のナウシカ に思う>No.25

「風の谷のナウシカ」は、1984年映画版が有名ですが、
1982年より宮崎駿氏(1941年山羊座生まれ)41歳のときから
マンガ雑誌「アニメージュ」に連載を始めて約11年間、
1994年53歳のときに完結した映画版の基となった漫画版があります。
発売とほとんど同時に購入して読んでいました。
(残念ながら1巻2巻は初版本ではないのですが、
3巻~7巻は初版本を所有しています)
漫画版の方が深く複雑ですが特に、
映画と漫画ではラスト(終焉)が全く違います。
映画化された部分は漫画版全7巻のうち、2巻前半までの内容に
手を加えた形になっています。

(第4巻付随ミニポスター)

前述、<あけましておめでとうございます>No.119には、
https://nakagawaayuki.com/?p=1000
http://ameblo.jp/haruminakagawa/day-20110104.html
村上もとか氏の「龍」に関して書きましたが、
「風の谷のナウシカ」も「龍」と同様、戦争が背景になっています。
大きな違いは、「龍」は歴史SFで過去のことですが、
「ナウシカ」は38世紀のずっと先の未来です。

ちょっと触れましたが、「フェイバレット」
<20世紀少年と、恐竜展&映画ソルトへ>No.24
https://nakagawaayuki.com/?p=794
http://ameblo.jp/haruminakagawa/day-20100907.html
映画「ソルト」では、
主演のアンジェリーナ・ジョーリーがスパイを演じ、
北朝鮮や中東も絡んでくるアメリカとロシアのスパイ合戦のお話です。

また私は、さいとうたかを氏(1936年蠍座生まれ)の
漫画「ゴルゴ13」を読み続けて40年近く経ちました。
歴史の一部を「ゴルゴ13」で勉強させていただきました。
「ファイバレット」
<ゴルゴ13に学ぶ>No.4
https://nakagawaayuki.com/?p=572
<ゴルゴ13に学ぶ2>No.7
https://nakagawaayuki.com/?p=566
ゴルゴ13の初期作品は、米ソ冷戦時代のお話が多く、
映画「007シリーズ」に似たような色もありました。
しかし今日、米ソ冷戦=スパイ合戦はもう終わっているはず…?
と能天気な日本人の多聞にもれず私も思っていました。
去年(2010年9月)「ソルト」を見ていて、
今まだ、アメリカとロシアはスパイ合戦をしているのか、
というのが不思議であると共に、実にリアルに感じ怖くなりました。

北方領土問題、尖閣諸島問題、沖縄基地問題、拉致問題など、
日本が抱えている火だねが浮上する今日、ニュースを見ていると
戦争経験者の昭和ひとケタを親に持つ私ですが、
生きている間に日本が戦争に巻き込まれることはまずないと、
思っていたはずが、そう言い切れない不安に襲われました。

シュメール以前、存在していたと言われる古代文明の
アトランティスとレムリアは、アトランティスがレムリアを攻めて
両方とも滅んだと言われる説があります。
現在、飛行機が行方不明になることで有名な
「魔の三角地帯」と呼ばれるバミューダ海域は、
あり得ない量の放射能が検出されているそうです。
古代に核兵器が使用されたと論じる著書も数多く出ています。

かつて、地球の政権を恐竜は、2億年も担っていました。
前述の<20世紀少年と、恐竜展&映画ソルトへ>にも書きましたが、
「サインズ」<2036年 アポフィス>No.98
https://nakagawaayuki.com/?p=774
http://ameblo.jp/haruminakagawa/day-20100827.html
恐竜は隕石によって滅んだとされますが、
自ら核兵器を使ったわけではないので、2億年も存在できたのかもしれません。

映画「ソルト」でも現在の核兵器をめぐってのスパイ合戦でしたし、
漫画「龍」も古代の核兵器(秘宝)を廻って第二次大戦中が描かれています。
「ナウシカ」では、核兵器を装備した巨神兵が登場します。
28世紀(西暦2700年代)「火の7日間」に、たくさんの巨神兵が、
使われ人類は地球もろともぼろぼろになります。
その1000年後の38世紀(西暦3700年代)、1体だけ埋もれて残っていた巨神兵を、
映画版では、トルメキアの王女クシャナが兵器として使いますが、
漫画版では、ナウシカが巨神兵の母となって共に行動します。
(漫画版のクシャナはもっと高貴でタフであり、真の王道を生きます。)

「ナウシカ」は、宮崎さんのリアルな思考に基ずいたSFですが、
創造力というより、人類のアカシック(レコード)から、
未来をあるいは過去をダウンロードしたのではないかと思うほどです。

「ナウシカ」に出てくる腐海(ふかい)は、
人体に有毒な胞子を飛ばす巨大なキノコ類の森です。
映画版では、センセーショナルな登場をする巨大な虫、
王蟲(おーむ)を始めとする生態系が腐海の中に在ります。
ナウシカは、腐海の樹木が綺麗な土と水の環境でなら、
有毒な胞子(瘴気(しょうき))を飛ばさないことに気が付きます。
腐海は、清浄な空気と土を再生させるために生まれたものだったからです。

それが人為的であったと解るのは、最終巻(第7巻)で、
旧人類の智慧の宝庫、土鬼(ドルク)の墓所を開けてからです。
映画版では明かされなかった衝撃的な秘密…
それは腐海も王蟲もすべて、旧人類の人工的な産物だったということです。
なんのために…
核兵器を使用しすぎて、
ぼろぼろになってしまった地球を浄化するためにです。
しかしここでもっと驚くことは、人類の人体さえも、
汚れた環境に合わせて作りかえられていたということです。

物語では、ナウシカを始めとする人類は、マスクを着けていても、
有毒な瘴気(しょうき)の環境にあるため、人体に毒素が溜まっていきます。
ナウシカは11番目の子供として生まれ、
10人の兄姉の犠牲の上に育っていきます。
母体の毒素を吸って子が生まれるため育たなかったり、
老いとともに手が石化して動かなくなる「生」を彼らは生きています。
その人体でさえ、旧人類が高度な技術によって、適応させたものだったのです。
汚染された地球の生態系に手を加え、
それに適応した人体をも産み出していたのです。

ナウシカは森の人、セルムに言います。

「闇は私の中にもあります。
この森が私の内なる森ならあの砂漠もまた私のもの、
だとしたらこの者はすでに私の一部です。」

そして、宿業深き土鬼(ドルク)の皇帝を成仏させてしまいます。

「あなたは生命の流れの中に身をおかれています。
私はひとつひとつの生命とかかわってしまう…
私はこちらの世界の人達を愛しすぎているのです。
人間の汚した、たそがれの世界で私は生きていきます。」

セルムたち森の人は、火を捨て腐海という自然に中に生きる種族です。
一方、ナウシカは人間らしい暮らしを
忘れていない「風の谷」に生きてきました。
ナウシカは戦争に備えて凄腕の剣士でもありました。

「火の7日間」という最終戦争は28世紀(2700年代)に起こりますが、
「ナウシカ」が登場する38世紀(3700年代)まで1000年の月日が流れています。
最終戦争を起こした旧人類とは、まさに私たちの未来です。
宮崎さんが「ナウシカ」を描いていたのは、20世紀(1982年~1994年)最後でした。
現在、21世紀(2011年)ですが後700年くらい先の、
今の文明の集大成を描いたのです。

日本に原爆が投下されたのが1945年です。
まだたったの数10年しか経っていないのです。
現在、核所有国は、核兵器が抑止力だと言う見解ですが、
一歩間違えて使用したら地球そのものが壊れてしまいます。
映画「ソルト」はその様子がリアルでした。

また、
<プラネタリウム 六本木ヒルズと科学未来館>No.115
https://nakagawaayuki.com/?p=935
にちょっと触れましたが、
地球に今まではあり得ないから宇宙存在?かと騒がれた
ヒ素を取り込む(食べる)バクテリアが発見されNASAが発表しました。
DNAを始めとする生物の研究は益々進むでしょう。
がん細胞を攻撃するリンパ球を自身から採取して培養し、
人体にまた戻す免疫療法など役立つ医療技術が向上している半面、
クローンを生みだすこともできるようになりました。
何が…、何処までが…、
「神の領域」なのかは、私には解りません。
「神」の定義は難しいからです。

私が小さい頃(1960年代)、オゾンホールはありませんでした。
(オゾンホールは1970年代前半に発生したとされている)
小学生の頃、海に行けば太陽(紫外線)は柔らかで、
日焼けしても、心配なほどではありませんでした。
またアトピーという言葉も一般的に浸透していませんでした。
それでも…
核兵器を使用せずとも、日に日に環境は汚染されてきました。
そして、汚染された空気や水の中でも、
生物は適用して生きようとします。
私たち人間も例外ではありません。

宮崎さんが視た私たちのなれの果てが、
SFであるナウシカに登場する
巨神兵、腐海の生態系、ヒドラ(人造人間)を
作りだしてもおかしくはないのです。

「たとえどんなきっかけで生まれようと生命(いのち)は同じです。
生命はどんなに小さくとも外なる宇宙を内なる宇宙に持つのです。
精神の偉大さは苦悩の深さによって決まるのです」

人工的に造られた生命に対してにさえ、放ったナウシカの言葉です。

千年の時を経て浄化され、その役目を終えた腐海や蟲たちは、
全て滅んでいくようにも設定されていました。
清浄な地球に戻ったときに再生するように
綺麗な(ナウシカたちのように造り変えられていない)人間の卵もありました。
汚染された環境に適応できるように造り変えられてしまった
ナウシカたちの人体も綺麗に戻す方法もありました。

しかしナウシカは叫び、
これらをすべて巨神兵と共に破壊してしまいます。

(第6巻付随ミニポスター)

「私達の身体が人工で作り変えられていても
私達の生命は私達のものだ。生命は生命の力で生きている。」

「生きることとは変わることだ。」

「なぜ気づかなかったのだろう。清浄と汚濁こそ生命だということに、
苦しみや悲劇やおろかさは清浄な世界でもなくなりはしない。
それは人間の一部だから…
だからこそ苦界にあっても喜びやかがやきもまたあるのに」

ナウシカは墓所の番人ヒドラ(人造人間)と対峙します。
このラストは、1977年~1980年「月刊マンガ少年」に連載された
竹宮恵子氏(1950年水瓶座生まれ)のSF作品「地球へ…(テラへ)」に似ています。
「テラへ…」では、ミュー(次世代の超能力を持った新人種)が、
支配から逃れるべく全てを統べコントロールしてきた
コンピュータ「マザー」を破壊します。
しかしそのような事態を予想して平和を取り戻すようセットされていた
別のコンピュータ「地球テラ」をさらに地底に見つけます。
そして、マグマの流れさえ制御できるコンピュータ「テラ」をも止めてしまいます。
制御を失った地球は、到る所で噴火して天変地異が起こり始めます。
全てが破壊された世界に敵対していた人類とミュー(新人類)が、
共に生きていくラストへと繋がります。

竹宮さんのこの作品は「ナウシカ」より古いものです。
宮崎さん同様、竹宮さんも
人類のアカシックからダウンロードしていたのでしょうか…

もうひとつ似ている作品を紹介しましょう。
樹なつみ(いつきなつみ)氏(1960年水瓶座生まれ)の
SF作品「獣王星」(1993年~2003年連載)にも共通するところがあります。
とくにこの作品は映画「アバター」に類似するところがあり、
私は「アバター」を観たときに、樹さんの「獣王星」を思い出しました。
「獣王星」はアニメ化もされており、
堂本光一くんが声優として出演していた記憶があります。
「獣王星」でも人為的に星(天体)を制御していた装置「ボール」を
人智を超えた植物「ベラ・ソナー」が破壊します。
植物ベラ・ソナーが「星」の意思のように描かれています。

再び、ナウシカと墓所の主(ぬし)との最後の対話です。

「人類はわたしなしには滅びる」…

「それはこの星が決めること」

そう…
悠久のときを経て、地球が決めることなのでしょう。

「いのちは闇の中のまたたく光だ」

「すべては闇から生まれ闇に帰る」

私たちは「闇」から生まれたのでしょうか…?

御魂(神仏)を宿している人間を「光」の存在だと、
性善説的なことを信じている私には衝撃的な言葉です。
でも戦争を繰り返し、同じ悲しみを何度も味わう人類は、
もしかしたら、闇から生まれたのかもしれません。

「生きねば」

「風の谷のナウシカ」漫画版最終巻最後の1コマの言葉です。

私たちは…
生きねばならないのです。

そして「光」にばかり目を向けずに
「闇」にも向き合わないとならないのだと思います。

(第5巻付随ミニポスター)